レギュラー番組/菅原明子の「エッジトーク」

●ゲスト---2009年1月、『悼む人』で第140回直木賞を受賞の小説家、天童荒太さん
≪日常生活の中で、心を深く揺り動かす出来事は、どこにでもあるものではない。 でも、...≫


日常生活の中で、心を深く揺り動かす出来事は、どこにでもあるものではない。
でも、映画、音楽、そして小説などからによって、そのような体験が出来ることがある。

特に、今回紹介するゲストの小説を読み終えたとき、皆さんの日常生活に対する見方や感じ方に変化が生じ、心を深く揺り動かす出来事に気がつくようになるかもしれません。

今回2週にわたってお送りしたのは、『悼む人』(文藝春秋)で、第140回直木賞を受賞された小説家の天童荒太さんをゲストに迎え、『悼む人』執筆へのキッカケや『悼む人』を通して読者に伝えたかったことなどを伺いました。


求めていらっしゃるのは、この人ではないでしょうか。(『悼む人』プロローグ冒頭文より)


長篇小説『悼む人』は、構想7年をかけて書かれた天童荒太さん渾身の大作だ。その構想に行きつくまでに、大きく2つの出来事が起因している。

「1995年に起きた阪神淡路大震災とちょうど同じころ、父が病気で亡くなりまして、当然のことながら、阪神淡路大震災で亡くなられた方々は、ひとりひとり大新聞で取り上げられはするけど、別のところで亡くなった人は取り上げられたとしても地方新聞に小さく掲載されるぐらい。同じ日に亡くなった同じ命なのにと思いました。」(天童)
また、2001年9月11日に起きた『アメリカ同時多発テロ』で、さらにその思いは深まったという。
「あの出来事は、ショックだったけど、その後、アフガンでは、多くの命を奪うことが起きている。悼みに対する差があること自体が、人の死を軽くしている象徴なのではないか?分け隔てなく死を考える人がいたら・・・と考えました。」(天童)

そして、小説と同じ分量のプロットを積み重ね各人の祖父母も含む履歴書を書き、人物を完全に把握してから書き始める。

「自分が経験したことをフィードバッグするために、静人日記を作り、3年間、いろいろな人の死を悼み続けました。故人は、こんな人を愛していた。こう愛されていた。と3年間書き続けた。」(天童)

小説の主人公である坂築静人のように「亡くなった人の善きところを覚えることで悼むことが出来るのではないか?」と気がつくまでに5年かかったという天童さん。
読者から、「本当に大切なのは生きているときの笑顔や感謝の気持ちをもつことですね。」とあったのが、嬉しかったとのこと。
「悼む人がいてそれによって周囲の変化の結果が一番大事。静人が主人公ではあるがその主人公による変化を書いた。」(天童)
「自分がした経験というよりモデルを提示したかった。死に向かう一つの生き方。死に方。こういう見送り方。読者に届けるのも一つのモデルです。『生命の尊さ』が伝われば。」(天童)

「大勢の人にますます読んでほしい一冊ですね。」(菅原)



今回のエッジトークの内容がより詳しくわかるのは第140回直木賞受賞作『悼む人』(文藝春秋)です。
善と悪、生と死が交錯する『永遠の仔』以来の感動巨篇は、死を日常的に捉え、今、生きていること愛するものに囲まれていることが幸せだと感じさせてくれる作品になっています。
静人は問いかけます『彼女は、誰に愛されていたでしょう。誰を愛していたでしょう。どんなことをして、人に感謝されたことがあったでしょうか。』。ぜひ読んでみてください。


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次回のゲストは、近田美季子さんです。7月8日(水)・7月15日(水)23:00~23:30・ラジオ日本「菅原明子の『エッジトーク』をお楽しみに!