レギュラー番組/菅原明子の「エッジトーク」

●ゲスト---佐野眞一さん『甘粕正彦 乱心の曠野』著者
≪放送日・2009年1月7日(水)・1月14日(水)23:00~23:30・ラジオ日本≫


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ベルナルド・ベルトリッチ監督の映画『ラストエンペラー』をごらんになった方なら、坂本龍一さんが演じた甘粕正彦像を記憶していることでしょう。中国、最後の皇帝・溥儀を陰で操る、暗く冷酷なキャラクター。
そして、日本の現代史に触れた人なら、無政府主義者・大杉栄と伊藤野枝が殺害された大杉事件の主犯者として記憶している人も多いことでしょう。

ところが、関東大震災下の1923年に起きた大杉事件から85年の歳月が経ち、本日のゲスト・佐野眞一さんの手によって、元大尉であり憲兵分隊長であった甘粕正彦像、そして満州映画協会理事長となった甘粕正彦像があらためて掘り起こされます。

軍国主義へと突き進む大正時代の日本にあって、甘粕正彦元大尉はほんとうに大杉らを殺したのか。刑期を終えたあと、どのようにして満州国建設に携わったのか。満映理事長室で自決するまで、満州で何をしていたのか……。残された、わずかながらも貴重な資料と証言を緻密に追った取材からまとめた甘粕正彦の物語については、ぜひ、本書『甘粕正彦 乱心の曠野』を読んでいただきたいと思います。

そこから溢れて出ているのは、仕事人として桁はずれの能力をもつ、ひとりの日本人としてあくまでも高潔で誠実な甘粕正彦像でした。

「善人であれ悪人であれ、リビドー、つまり原始的なエネルギーが強烈な人でなければ書きたくない」と、佐野さんはおっしゃいます。その信念に支えられてこその傑作です。後世、甘粕正彦を研究する人にとっては、勉強の原点である一冊となるにちがいありません。

この本は発売から半年で40,000部以上も売れているとのこと。それを聞いて、とてもうれしくなりました。はやりの娯楽本とは一線を画した500ページ近い大作で、日本の現代史についての基礎的な教養がなければ楽しめる本ではないからです。読む側にもエネルギーが必要とされる本、といえるかもしれません。

日本人の読書離れが指摘されてから久しくなりましたが、まだまだ読書ファンは大勢いる。それなら、この本と同じように、著者が真剣勝負で挑んでくる作品もどんどん出てくるはずと思います。本屋さんで良書を探すのがますます楽しみになりました。

お話の続きは、1月7日(水)・1月14日(水)23:00~23:30・ラジオ日本「菅原明子の『エッジトーク』でどうぞ!